難読姓の由来
難読姓の由来
広義では珍しい苗字、数の少ない苗字、読み方の難しい苗字をすべてまとめて珍姓といいますが、難読姓という言い方もします。これは珍姓のうち、とくに文字通りに読めない苗字のことを指します。では、難読姓の由来も読み解いてみましょう。
四十九院 つるしいん
Tsurushiin 地名・物象・当て字型
全国順位 45,262位 全国人数 約50人
苗字は宮城県・北海道・千葉県 ・茨城県などにごくわずかに存在します。地名は石川県加賀市山中温泉四十九院町、滋賀県犬上郡豊郷町大字四十九院とともに「しじゅうくいん」と読ませています。どちらも東大寺の大仏造立に尽力した行基(668-749)の機内四十九院建立にあやかって四十九院村と称したという伝承を持っています。ただし福島県伊達市保原町柱田の四十九院は「つるしいん」と読むことから、この地が苗字「つるしいん」の発祥地と推定されます。同地には飴買い幽霊の伝説が残っています。
その昔、毎晩飴を買いに来る女性がいました。夜ごとの事なので不思議に思った主人が後をつけると、女性は柱田にある領主遠藤氏の妻の墓の前で消えました。この墓には身ごもったまま亡くなった女性が葬られていたのです。主人が墓の前に立つと地中から赤ちゃんの泣き声が聞こえます。あわてて掘り起こすと、墓の中で飴をなめている赤ちゃんがいました。この日はちょうど女性が亡くなってから四十九日でした。女性は幽霊となって飴を買い、赤ちゃんに与えて命をつないでいたのです。
この赤ちゃんは立派な若武者に成長して伊達氏に仕えました。そして殿様はこの話を聞いて、苗字を遠藤から四十九院(つるしいん)に改めるように命じました。これが柱田に残る四十九院姓誕生の物語です。
しかし、この話だけではなぜ四十九と書いて、「つるし」と読むのかが分かりません。その謎については、次のような解釈があります。すなわち四十九日は七×七。並べることを「つる」ということから、七七は「つる七(し)」です。これで四十九を「つるし」と読む理由が理解できす。そして四十九院とは、亡くなった人の生魂が死霊になるまでの四十九日間、その魂をなぐさめる場所のことだというのです。興味深い解釈です。
ここで紹介した四十九院は本当に難読の苗字ですが、実は我々のまわりのよく見かける苗字のなかにも国語的には難読のものが結構多いのです。たとえば服部さん。「はっとり」と読むことを知っているので読めますが、知らない外国人が漢字だけで読むと「ふくべ」となります。どう考えても「はっとり」という読みは思い浮かばないでしょう。この苗字は古代の機織り集団である服織部(はとりべ)に由来しています。その服織部の織が除かれて服部となり、読みも「はっとり」へと変化を遂げたのです。ほかにも日下(くさか)さんや春日(かすが)さんも文字通りであれば「ひした」「はるひ」となります。これは「日の下(もと)の草処(くさか)」、「春の日の霞処(かすが)」の漢字と読みを枕言葉風に合体させて生まれました。
あらためて知り合いの苗字を思い浮かべると、漢字通りに読めないものがあると思いますよ。