系図証明基準
家系図を作る時、古い除籍に書かれている事を無批判で信じて家系図を書く人がいますが、これは考えものです。
現在取得できるもっとも古い除籍である明治19(1886)年式戸籍を見ると、戸籍吏と届出人がまるで共謀したかのようなあり得ない記載を目にすることがあります。明治の村落では戸籍吏と村人が同じコミュニティの一員でした。親戚であったかも知れません。 そのような関係にある者同士であれば、戸籍の内容を意図的に創作することも不可能ではなかったのです。
たとえば60歳近い女性が子供を産んでいたような事例があります(まずあり得ませんね)。このような不自然な記載を発見した時、これを親戚からの聞き取りや過去帳、墓石情報などで検討することによって、正しい事実を発見できることがあります。正確な家系図を作りたいのなら、このような信ぴょう性の確認は欠かせない作業となるでしょう。ちなみに、上記の女性の場合は、夫が愛人に生ませた子供(男の子)を、自分が産んだ子供として届けたためにそのようなことが起こりました。この女性には実子がいなかったため、たとえ愛人の子であっても家の跡継ぎになる男の子ですから、正妻の自分の子として届けたかったのだろうと考えられます。
家系図の信ぴょう性を確認する最善の方法は史料批判を試みることです。自分で作った家系図、業者に依頼した家系図、伝来の家系図を問わず、書かれている内容が何の記録に基づいているのかを確認する作業です。
自分で作った家系図であれば、出典元の史料が一次史料(同時代人の手紙や日記)であるかどうか、一次史料であれば、その史料の外的批判と内的批判を検討することによって信ぴょう性を確認することができます。業者が作った家系図であれば、個々の記事で使用した記録を一覧にしてもらい、それぞれの記録を史料批判することによって信ぴょう性を検討することができます。伝来の家系図の場合は、出典が分かりませんから、他の系図や関連する記録を探し出して両方の記述の相違点を確認する作業から始めることになります。
アメリカでも近年、ネット上にアップされている家系図の信ぴょう性について疑問の声が高まり、系図学者認定委員会(1964年に系図学者の専門資格認定機関として設立された非営利団体。 Board for Certification of Genealogists 。通称BCG)という組織が系図証明基準(Genealogical Proof Standard 。通称GPS)を定めました。これは系図の信ぴょう性を確認するため、その基になった情報や記録がオリジナルのソース(出所)なのか、オリジナルから派生したソースなのか、出来事に直接関わった人物が出来事の直後に残した一次情報(歴史学でいう一次史料)なのか、そうではない二次情報なのか、その記録はある質問に対して他の証拠を必要とせず答えを出している直接証拠なのか、他の証拠によって間接的に状況を立証している間接証拠なのかについて、逐一検討していく作業のことです。
具体的には、次の5つのステップを踏むことが求められます。
- かなり徹底的に情報を集めなければならない。かなりの範囲には、プロであれば見なければならない情報源をすべて含んでいる。
- 収集された情報の引用元を明らかにし、他者による再現を可能にする。
- 集めた情報の信頼性を検討し、互いに関連付け、解釈する。その記録はイベントの時点で作成された一次記録か。それとも後に作られた二次記録か。その記録は現物(オリジナル)か、または要約などの派生ソースか、などを検討する。
- 矛盾する証拠がある場合、その矛盾は解決されなければならない。
- 結論は適切な推論であり、合理的なものでなければならない。
欧米では、この系図証明基準に基づいた系図しか高い評価を得られなくなってきました。業者に依頼するときも、その業者が系図証明基準に基づいて家系図を作成しているかどうかを気にする人が着実に増えてきているのです。
日本でも、このような信ぴょう性を確認する基準が一日も早く家系図の世界に導入されることを願っています。そして、すでに作られた系図もこの基準に基づいて再検証されるべきでしょう。
アメリカのWebサイトより