地名の語源



大和言葉の語源を知る

地名の語源を解釈できれば、苗字の約80%の由来は解き明かせます。そのためには、地名に使われている大和言葉の語源を知らなければなりません。以下におもな大和言葉の語彙の語源を並べてみました。語源解釈は日々進歩しているため、この解釈が必ずしも的を得ているとは言い切れませんが、語源を知る手掛かりにはなるはずです。

 使い方ですが、たとえば山田さんであれば「や・ま・だ」「やま・だ」「や・まだ」という語彙の語源を組み合わせてみます。それによってイメージできる地名や情景を思い浮かべます。通常は当てられた文字の区切りが大和言葉の語彙の区切りと一致していることが多いので、山田さんであれば、「やま・だ」の語源がもっとも有力ということになります。もしも文字の区切りでは不自然なものしか出来上がらない場合は、苗字事典を見て同音異字の苗字を調べて、他の区切りで文字があてられていないかを確認します。そういう作業を繰り返していくと、じょじょに地名語彙とは、どのように組み合わせるのが適切か、ということが分かってくるものです。


【あ】

あ  ①接頭語②湿地③漁場

あい ①谷間②合流③湿地

あお ①白以外の色②湿地

あか ①赤色②開墾地

あき ①美称②湿地③高地

あさ ①浅い②小さい③傾斜地

あま ①高所②海③湿地

あら ①急流②崖地③新しい

あり ④目立つ②突き出る

い  ①接頭語②水辺③神聖

いい ①高所②水辺

いし ①石②磯辺

いず ①泉②温泉③突起

いそ ①数多い②断崖絶壁

いた ①板木②削られた

いち ①一番目②市場③厳粛

いと ①磯辺②内部③細い

いな ①砂地②野原③水田

いぬ ①低い②狭い③小さい

いま ①新しい②タブー

いり ①川の上流②谷③西

いわ ①岩②崖③堤防

う  ①接頭語②東

うえ ①高所②末(果て)③植える

うき ①泥地

うち ①内側②入江③接尾語

うま ①馬②南③崖地

うめ ①海辺①埋立地③梅の木

うら ①先端②下方③入江④内側

え  ①水辺②枝分かれ③高所

お  ①接頭語②岡③末端

おい 「大」「多い」の転化

おお ①美称②大きい③立派

おか ①岡②上③尾根④陸地

おく ①奥まった所②上流

【か】

か  ①強意の接頭語②接尾語③川

かえり①山すその草原

かき ①区切られた地②崖

かた ①方面②遠浅水辺③傾斜

かど ①泉②川③門④空き地

かな ①金属②直線③直角

かね ①金属

かま ①岩穴②淵③穴④窪み

かり ①山畑②狩猟③崖地

かわ ①川②泉③井戸④堀⑤池

き  ①木②柵③接尾語④黄色⑤接頭語

きく ①山峰②包む③菊

きし ①岸壁②崖③水辺④傾斜地

きた ①北②崖の上の平地

きど ①城門②水門③狭い

きり ①桐②断崖③切れ目

く  ①接尾語②崩壊地

くさ ①採草地②湿地③傾斜地

くに ①大きな地②国府

くぼ ①窪地②山頂③尾根のたわみ

くま ①曲がる②隅③暗所

くら ①岩壁②谷③岩の多い山

くろ ①積む②小高い③斜面④かたわら

くわ ①そば②崖③窪地④桑

こ  ①小さい②接尾語③木④近く

ごう ①地方区画の郷②川

こし ①頂上②嶮岨な谷③断崖

【さ】

さ  ①狭い②小さい③下方④坂

さい ①狭い谷間②障害物③水

さか ①傾斜地②峠③土地の境

さき ①狭い②裂く③先(末)端

ささ ①小さい②細かい(砂地)

さだ ①岬②先端③限定

さわ ①山間の湿地②水辺③窪地

し  ①石②接尾語③下

しお ①谷の奥②肥えた土地③湿地

しか ①州浜②干潟③漁業地

しげ ①湿地②重なり茂る③未開発地

した ①下方②山の麓③底

しの ①湿地②傾斜地③目立つ④隠れる

しば ①芝草②林③焼畑④崖崩れ

しぶ ①沼地②湿地③泥地④谷の狭所

しま ①水に囲まれた陸地②州浜③仕切り地

しも ①川の下流②低地

しら ①白色②素朴③乾燥④傾斜地

しろ ①白色②雪③塩④砦

しん ①新しい

す  ①接頭語②砂地③浅瀬

すえ ①末(先)端②陶器製作地

すが ①砂地②中洲③川べり

すす ①尖る②薄③神聖

すな ①砂地②土③少ない

すみ ①奥②端③曲がり角④集落

せ  ①浅瀬②急流③山の稜線④狭い

せき ①関所②水を止めた所③用水路

せと ①狭い②路地③裏手

そ  ①外②接尾語

そね ①山頂②尾根③痩せた土地

その ①野菜の栽培地②畑③家の裏

【た】

た  ①接尾語で場所②耕作地③接頭語

だい ①山頂②台地③野原④低湿地

たか ①高所②田地③陸地

たき ①山②崖③急流

たけ ①山②高所③川の上流④竹

たて ①岡の尾根の先端②傾斜地③砦

たに ①谷川②谷

たま ①接頭語②神社③湿地

ち  ①接頭語②接尾語③多い

つ  ①港②渡し場③泉④接尾語

つか ①盛り上がった土地②墓③畑の単位

つき ①高所②突き出る③埋立地

つじ ①峰②頂上③先端④四つ角⑤合流点

つち ①土②湿地③高所

つつ ①包まれる②さえぎる③崩れる

つぼ ①窪地②淵③庭

つる ①細く曲がる②耕作地③鶴

て  ①接尾語②接頭語

てら ①寺院②墓③神社④平坦地

と  ①接尾語②接頭語③狭い所

どい ①土手②豪族屋敷

とう ①山頂②峠③下り坂④傾斜地

とち ①囲まれた土地②栃

どて ①崖②傾斜地③池

とね ①高所②山頂③段丘

とみ ①瑞祥語

とり ①切り取る②傾斜地③西

【な】

な  ①接尾語②接頭語③野原

ない ①川②沢③谷

なか ①中央②中間③神域

なが ①長い②傾斜地③接頭語

なべ ①平坦地②急傾斜地③崩壊地④への転化

なみ ①波打つ②平坦地③並ぶ

なめ ①平坦地②崖③並ぶ④湿地

なら ①平坦地②山間の小平地

なり ①接尾語②平坦地

なる ①山間の平坦地②平地

なわ ①たわんだ土地②真っすぐ

に  ①赤土②水銀採取地③接尾語

にい ①新しい②赤土

にし ①西②崩壊地③湿地

ね  ①山の麓

の  ①野原②田畑

【は】

はし ①端っこ②橋

はったん ①八反の地

はな ①先端

ひ  ①日当たり②樋(とい。水路)

ひら ①崖②傾斜地

ひろ ①広い②低い

ふか ①湿地②深い

ふき ①沼地②風の吹く所

ふく ①佳字②ふくらんだ所

ふじ ①吹き抜け穴②高所③藤の木

ふな ①船②舟形

ふる ①古い②火

へ  ①あたり

ほし ①干す②星信仰

ほそ ①細くせばまった所

ほら ①山が崩れた所②洞穴

ほり ①水路②池

ほん ①元になる所

【ま】

ま  ①接頭語②立派な

まえ ①神社仏閣などの前方

まき ①牧場

まし ①細かい砂

ます ①四角形

まち ①区画した田地

まつ ①松の木②佳字としての松

まと ①弓の的②円形

まる ①円形②川や山すその屈曲する所

み  ①「御」で尊敬②「美」で美称

みず ①水

みぞ ①人工の水路

みね ①山頂

みの ①山ぞいにわずかにある高低差のある地

みや ①神社

むら ①集落②群がる

め  ①狭い場所②境目③接尾語

も  ①接頭語②接尾語③多い

もち ①餅形の土地②小さい盆地

もと ①地面②場所③親村④古い

もり ①小高い土地②塚(墓)③砂丘④神聖

もろ ①山②並ぶ③洞穴

【や】

や ①岩②湿地③小さな谷

やぎ ①岩や木陰の漁場②山間の狭い小谷③柳

やす ①沼地②痩せ地③州浜

やた ①低い湿地

やつ ①低い湿地

やぶ ①低木の繁茂地②焼畑

やま ①盛り上がった土地②森③林④耕作地

ゆ  ①用水路②泉③温泉

よ  ①美称②横③区切られた土地

よこ ①横②延びる③側面④東西

よし ①美称②葦が生えている湿地

よね ①砂地②米

より ①近づく②共同で利用する土地

よろず ①万物の栄えを願った佳字②屋号の万屋

【ら】

ら  ①そば②隣③接尾語

ろ  ①接尾語②場所

【わ】

わ  ①曲がる②上③接頭語

わか ①分岐点②湿地③高所

わき ①分岐する②そば③湧水地

わた ①曲がる②水辺③渡船場

わだ ①入江②窪地③屈曲地

わに ①黄赤色の粘土

わら ①野原②開墾地③集落④群れる


 橋本さんであれば、「はし」=①端っこ②橋、「もと」=①地面②場所③親村④古い。これらの語源を踏まえたうえで大和言葉に当てられた橋本という文字も考慮すると、「はし」は①橋、「もと」は①地面(たもと)が適切と判断され、由来は「橋のたもと」ということになります。ただし、全国に数多くある「はしもと」地名の中には「端っこの場所」という意味のものもあるかも知れませんが、それの可能性は限りなく低いでしょう。

 もうひとつ。

 梅田さんは、「うめ」=①海辺②埋立地③梅の木、「だ」「た」=①接尾語で場所②耕作地③接頭語の組み合わせです。梅のつく地名の場合、「うめ」が梅の木を意味しているものはほとんど見当たりません。地名として多いのは②埋立地です。埋立地の多くは水辺にありますから、①の海とも関係があります。よって梅田さんの由来は②埋立地+①場所がもっともよく考えられるということになります。こういう取捨選択をするためには、やはり地名の知識が必要となります。


場所を意味する地名語彙の多さ

 地名語彙の中で目立って多いのは、山岳国家日本らしく崩壊地、傾斜地を示す語彙と場所を示す語彙です。このうち、場所を示す語彙は多くの地名や苗字に接尾語として使用されていますので、改めて紹介しましょう。

 あなたの苗字の最後にこれらの語彙が付いていれば、それは地名用語で場所を示す言葉です。

」「

 一定の領域、場所(間)を意味します。

やま(山、夜麻)」

 樹木におおわれ鬱蒼(うっそう)としたところ。「さん(山)」のことは原日本語では「たけ(岳、嶽)」と呼びました。

しま(島)」

 水に囲まれたところ。「し」は水を意味する要素です。

(多摩)」

 周辺より高い領域のこと。「玉」なども同じ。「た」は「高い」ことを表現する要素で、「たけ(岳)」の「た」も同じ。

(間々)」は丸い形の場所。語頭の「ま」は「まる(丸)」を意味する語要素。

(天)」

 はるか高い領域のこと。または、はるか離れた領域、場所のこと。または、海を隔てた領域を意味します。「あまくさ(天草)」「あまのはしだて(天橋立)」など。

 「田」をあてる例が多いですが、水田という意味だけではありません。水田よりも、ある特性の場所を示す地名用語としてよく使われました。足(た)を地(つ)に付ける「たつ(立つ)」に由来しているものと思われます。

(浦)」

 周辺より小高い場所。主として水辺の高み。

(白、代)」

 低湿地のこと。「水田」に関連した用語に多く使われています。

」、「

 「へり(縁)」に示されるように、ある領域の境界部を意味します。